ザ・達人のオシ本

赤めだか

立川談春[著]

扶桑社文庫

■今月の選者:KyuRi(タブラ奏者)

僕はタブラの修行のため今も毎年インドへ行くのですが、そのたびに現地で落ち合い、ルームシェアしている仲間がいます。彼が学んでいる楽器はシタールですが、その師匠がメチャクチャ怖くて厳しい方で、彼は僕と同い年なのに毎日レッスンから泣きながら帰ってくるほど(笑)。そんな彼が「僕はこれを読んで、師匠との繋がりを感じている」と貸してくれたのがこの本です。

毎朝、弟子たちは師匠の故・立川談志さんから大量の用事を言いつけられます。あれもこれもと矢継ぎ早に言われて、弟子たちはメモを取る暇もない。それでもなんとか頑張ってみるものの、案の定いくつかやり忘れて師匠にこっぴどく叱られる――という場面があるのですが、僕、タブラでこれと同じ教え方をされたことがあるんです。こうしろ、なぜできないんだと散々言われて頭はパニック状態、とりあえず手は動かしてみるけどやっぱりできない。でも不思議なことに、あとから落ち着いてやってみるとできるようになっているんです。どうやら、人は普通の状態では集中力が足りないらしい。むしろパニックで何も考えられないくらいのほうが、頭ではなく身体で理解できるんです。

もうひとつ。本の中で談志さんは「どうやったら俺が喜ぶか、それだけ考えてろ」と言います。これは、師匠を喜ばせられないヤツがお客を喜ばせられるわけがない、ということもあるのですが、そもそもなぜ弟子になるかといったら、師匠の持つ技術を身につけ、それを実現できるようになるため。そのためには、師匠が教えてくれたことに全力で応えて“教えたい欲”を高めることが一番だと思うんです。音楽の道に進む前は普通の会社員をしていた僕としては「上司を喜ばせてなんぼ、これって会社も一緒だなあ……」なんてことも思ったり。
落語と音楽という違いはあっても、この本から僕が共感する部分はとても多いです。そして師匠と弟子の関係や、常に一緒にいるからこそ伝わるもの、自分より先を歩くその背中から学ぶことは、きっとどの世界でも同じなんですね。


プロフィール)
きゅうり:30歳を機に脱サラし、ミュージシャンを志す。インド国内外で活躍するタブラ奏者「アルナングシュ・チョウドリィ」氏に師事。タブラと電子音楽を組み合わせたソロ活動をはじめ、ヨシダダイキチ、TAKSEEMA、HAMA from滞空時間とのユニット『Unit_a w a_』などで活動中。またインドから演奏家を招聘し、日印の文化的交流を目的とした公演なども企画・開催している。11月14日(火)にはROVOのパーカッショニスト岡部洋一とUnit_a w a_とのスペシャルライヴを渋谷・サラヴァ東京にて開催。 https://www.kyuri-tabla.com/

タブラの師匠であるチョウさんと。本を貸してくれた彼の師匠と違って、僕の師匠はとても優しくて穏やかな人です