ザ・達人のオシ本

芸人

永六輔[著]

岩波新書

■今月の選者:桂りょうば

この本は今から10年ほど前、『グルグル映畫館』というバンドで音楽をやっていた頃に、メンバーの天野君に「すごく面白いから」と勧められたのがきっかけで読んだんです。永六輔さんが聞いた著名人やお客さんらの声を集め、一冊にまとめたものですが、この中で僕がとにかくグッときたのが「不合理とか矛盾を乗りこえて、納得させてしまうところに、芸があるんです」という一文。
例えば落語は、噺家が一人で何役もこなすけれど、よく考えたらこれっておかしい。お客の想像力に委ねているんですね。また、名人と呼ばれた古今亭志ん生師匠は大の酒好きで有名で。その逸話はどこまでホントかわかりませんが、中には酔って高座に上がり時に居眠りまでしていたとか、お客はいつもそのまま寝かせてあげた、なんて話も。怒るどころか、それでちゃんと成り立っているという。そして当時の僕は、音楽もこれと同じだと思ったんです。もし完璧な演奏だけが目的なら、ライヴでも録音したのを流しておけばいい。でもそうじゃなく、ミスしてもお客さんにバレないようフォローしたり、構成を間違っても後から盛り返したり。それこそが生のスリルであり、芸だと思うんです。

誰もが知る大スターたちの、おかしみと哀愁を含んだひと言ひと言には、一人の芸人としてとても考えさせられます。それはつまり“自分の役割とは何か”ってことなんですが、実はこれって一般社会にも十分通用する話だと思うんです。例えば会社でも、皆が皆社長にはなれるわけじゃないし、全員社長じゃ会社自体が成り立たないでしょう? 自分が社会のどの立場にいるかを理解すれば、ずっと生きやすい。この本にはそういう言葉がいっぱい詰まっている気がします。


プロフィール)
“昭和の爆笑王”と呼ばれた故・桂枝雀の長男に生まれる。劇団『笑殺軍団リリパットアーミー』、ロックバンド『SHAME』『グルグル映畫館』などで活動し、『SHAME』ではメジャーデビューも果たした。2015年、43歳で二代目桂ざこばに入門。落語家として精力的に高座をこなす傍ら、現在は音楽活動も再開している。12月21日(木)大阪・八聖亭「桂三実とだいぶ年上の後輩たち」、12月24日(日)京都・阿弥陀寺「第14回 阿弥陀寺落語会」に出演。また12月17日(日)には『hate77』ドラマーとして、神奈川・Music Lab.濱書房「ROCK IN YOKOHAMA」に出演。

天野君(中央右)と組んでいたバンド「グルグル映畫館」では白塗りしてました。

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