作家の読書道

相場英雄さん

撮影:三原久明

 

相場英雄〈あいば・ひでお〉
1967年新潟県生まれ。89年に時事通信社に入社。
2005年『デフォルト 債務不履行』で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞しデビュー。
12年『震える牛』が話題となりベストセラーに。13年『血の轍』で第26回山本周五郎賞候補、および第16回大藪春彦賞候補。16年『ガラパゴス』が、17年『不発弾』が山本周五郎賞候補となる。

 

ミステリー『震える牛』がベストセラーになり、その後も話題作を発表し続けている相場英雄さん。新作『トップリーグ』も政界の暗部に切り込むリアルなミステリー。エンターテインメントに徹する著者はキーパンチャーから記者になり、さらに漫画原作を手掛けるなどユニークな経歴の持ち主。その人生の道のりで読んできた本、そして小説家になったきっかけとは?

 

【漫画でエンタメを知る】

――相場さんは新潟のお生まれですよね。

相場:一応プロフィールでは新潟の三条市になっているんですが、実態は両親とも燕市という、隣町出身の人間なんです。たまたま親が三条市に安い土地を見つけて家を建てたのでそこが所在地になったんですが、中身は燕の人間なんですよ。僕は三条の学校に行っていたんですが「お前、燕もんだな」とか言われました。それで結構内向的なガキになりまして。両親はどちらも働いていて、親父は工場をやっていて、御袋は自分の実家の会社を手伝っていて、僕は一人っ子だったので、学校が終わるとどちらかの会社に行ってました。そうすると若い従業員が20人30人いるので、彼らの休憩所とか食事場所に少年誌が全部そろっているんですよ。漫画誌が。なので、文字の本よりも先に漫画を読み始めましたね。

――「少年ジャンプ」とか「少年マガジン」とか「少年サンデー」とか。

相場:「少年キング」「少年チャンピオン」も。全部読んでいました。月並みなんですけれども、「少年チャンピオン」で連載していた手塚治虫先生の『ブラック・ジャック』が好きでした。連載も読んで、単行本も買いに行って、版元には非常にいいタイプのお客さんをやっていました。あの頃は青年漫画誌がない時代でしたんで、お色気のやつや、ちょっときついナンセンスギャグのものも全部少年誌に載っていたんですよね。小学校2、3年のガキがシュールな『天才バカボン』を読んで笑ったりしていたんですよ。それを周りの大人が見て「お前、このギャグの本当の意味が分かってないだろ」っていう。それで背伸びして、ませた嫌なガキになるという典型的なパターンです。
手塚先生は小学校の間、『火の鳥』もずっと読んでいましたね。朝日ソノラマの、あのでっかい版で。いまでも読み返します。
最初のうちは文字の本はあまり読みませんでしたね。親がかなりの読書家なので「本を読め」と言って『十五少年漂流記』とか与えられるんですけれど、面白くもないじゃないですか。

――面白いですよ!(笑)

相場:後々になって面白さが分かるんですけれど、その当時はね。ちょうどNHKで『大草原の小さな家』のドラマを放送していて、ローラ・インガルス・ワイルダーの原作本も読まされて、分厚くて無理、って思ってました。その状態が小学校2年生くらいまであったんですが、3年生になると学校の図書館でホームズ、ルパン、江戸川乱歩の少年探偵団シリーズを読み始めたんです。そうなってくると面白くてやめられなくて、今度は親が「やめろ」と言うまで本を読んでいました。

――とりわけ好きだったものはありますか。

相場:江戸川乱歩先生が子ども向けではなく、大人向けに書いたものをライトにした『パノラマ島奇譚』とか『人間椅子』とか、ああいうのが好きになって。後々親本を読んでみて「とんでもなく変態本じゃん」って(笑)。小学校高学年になるとポプラ社さんの子ども向けのホームズやルパンでは物足りなくなって、文庫でオリジナルの翻訳本を読むようになっていました。『バスカヴィル家の犬』とかがめちゃくちゃ面白くてですね。その頃は本当に、本が友達でしたね。

――あれ、冗談ではなく本当に内向的だったんですか。

相場:本当です本当です本当です!今こんなですけど。いろいろあったんですよ、この50年で。

【憧れの女性が薦める本を読む】

――中学生時代はいかがでしょう。

相場:中学生になると本よりも映画でしたね。封切館は地元になかったんですが、だいたい2本立て、3本立てで上映しているのを観に行くようになりました。高校になると映画も観つつ、本も読んでいましたね。高校1年生のうちに2年生の分も詰め込んじゃうような変な学校で、僕は文系コースだったんですが、授業ももう、ほとんどコーランを聞いているような状態で(笑)。なので、すごく理解のある先生が「一応他の生徒の手前もあるから、教科書を立てろ。その内側で黙って本を読め」「幾何とかの授業は定規が必要だろう。あれを持ち運びする係をやったら、一応単位をやる。でも、一度赤点は出すから、一回追試は受けろ」と。それで授業中はずっと井上ひさし先生の『ブンとフン』とか読んでクスクス笑ってまして、怒られました。

――へえ。なぜ井上ひさしさんを知ったのでしょう。

相場:NHKの特集か何かで見たんでしょうね。「あれ、なんか面白そうなおじさんが出てる」と思って。読んでみたら「あっ、こんなに面白いんだ」っていうので読書熱が上がって、地元の書店さんに入り浸るようになったんですね。レコードとかも売っているような大きめの書店さんで。そこの書店員さんがすっごい綺麗だったんですよ。あ、30年ぶりに名前を思い出した、熊倉さんっていうすごい眼鏡美人で、ロックもよく知ってて、本もすごくよく知ってて、憧れのお姉さんに会いたいがために2日に1回くらい行っていましたね。そしたらそのお姉さんが「じゃあ、遠藤周作さんとかも面白いよ」とか「吉行淳之介さんもいいよ」と言うので、そっち系を読むようになりました。

――なんだか動機は不純な気がしますが、読んでみたら面白かった、と。

相場:面白かったですね。今でもたまにバイブルとして読むんですけれど、狐狸庵先生のぐうたらシリーズはやっぱり好きで。

――遠藤周作さんの別名義。エッセイですね。

相場:「正義漢づらをするな」なんてね、一生の格言ですよね。

――『沈黙』とか『海と毒薬』とかの小説は。

相場:そっちも好きなんですよ。『沈黙』は、僕が1年生の時に3年生だった馬場さんっていうすごく綺麗な先輩がやっぱりすごい読書家で、「あ、ぐうたら読んでるんだ。じゃあ『沈黙』読んでごらん」っていうから読んで「なんじゃこりゃあ」ってなって。小説でこんなえぐいこともやるんだ、と。で、『海と毒薬』を読んでも当然そうなりました。今、うちの倅がアメリカにいるんですけれど、夏に帰っていた時にスコセッシの「Silnce」を観たと言って、必死で英語で原書で読んでいたので、親子でその話ができたのが面白かったですね。「『海と毒薬』も英語で出ているから読んでみ、そしたらもっとびっくりするぞ」って言っておきました。
吉行淳之介さんは『砂の上の植物群』とかでしょうか。ちょっとエッチなやつです。

――ところで、中学生の頃映画が好きだったというのは、どのあたりを。

相場:はじめて一人で観に行ったのが伝説のミュージカル「ブルース・ブラザーズ」でしたね。こんなバカな映画があっていいのかと思いました。そこからコメディをワーッと観出すようになりましたね。母方のおじが、当時は高価だったベータのビデオデッキを持っている映画マニアで、家に遊びに行って観させてもらってハマっていきました。僕の今の仕事場や物置にはDVDが何百タイトルもあるので、ネタに詰まって困った時なんかにDVDを観て「これパクっちゃおうかな」とか。

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