みんなのオシ本レビュー

テーマ:旅の本

乗り物から外に目をやり、
居眠りをするひとときのような物語

黒沢 さん

スイス

エンジェル・エンジェル・エンジェル

梨木香歩

新潮社

旅の喜びの一つは心地よい揺れの伴う移動だと思う。指で繰るページの裏表のように邪悪さと正義の間を行ったり来たり。俗世間から聖地へキリスト教をヒントに歩みを進めていく時の適度な疲労。知覚できる範囲と認知できない世界の間を主人公の老人との会話により越境できる。旧漢字遣いによる移りゆく車窓の風景を眺めるような楽しみや、描写されるお茶の木や魚といった自然の生命力による活力を与えてくれる。一昔前と現代を俯瞰する地図をおともに、様々な女性たちの生活の断片が集められ今でも鮮やかなモザイク画を見上げているよう。一人旅で異文化に身を置きその土地の風に吹かれながら見知らぬ人と同じ物を食す、痛いけれど気持ちのよいところを突いてくる本だからまた旅に出たくなる。

旅の喜びを「揺れ」と
捉えていらっしゃる感性に
ハッとしました。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加