今月の話題本レビュー

遠い闇からの声

佐山啓郎[著]

文芸社

定価1500円(+税)

戦争に翻弄された人々の切ない葛藤を描く社会派小説

日本が中国侵略を進めつつあった昭和10年、全国に設置された「青年学校」は、やがて兵隊養成機関のようになり、多くの若者を戦場に駆り立てました。本書の核となる人物は、文学を志していたものの、青年学校の教員をしていた笠井峻三。戦後は、教え子を戦地に赴かせた罪の意識に苛まれます。舞台は現代。峻三亡き後、老人福祉施設に入居する妻の多代が、息子の康彦に突然ぶたれます。康彦をそこまで追い詰めたものは何か? 理由を探り始めた姉は、父と母に秘められた過去があると知ります。誰もが希望を失っていた終戦直後、峻三と多代、生き延びた教え子たちとの間に何があったのか。無意味な戦争に翻弄される人々の葛藤を描き、切なく胸に響きます。